今回はこちらの本をご紹介します。
タイトル | 鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。 |
著者 | 川上和人 |
出版社 | 新潮社 |
初版発行日 | 2020/7/1 |
備考 | kindleで読了 |
- とにかく笑いたい!面白い文章を読みたい!
- 一つの分野を極めようとする人(専門家)の話が好き
- 鳥類や自然に興味がある(なくても大丈夫)
ちなみに私はニワトリ以外の鳥と縁がない人生を送っていますが、めっちゃ面白かったです。
どんな本?
鳥類学者、それは神に選ばれし存在である。スマートな頭脳に加え、過酷なフィールドにいつでも出張できる体力が必要なのだから。
<中略>
生き物を愛する人にも、そうでもない人にも、絶対に楽しめる、汗と笑いの自然科学エッセイ。
出典:新潮社 書籍詳細:鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。
鳥類学者、川上和人さんのベストセラーエッセイ。
なかなかに強烈なタイトルですが、もちろん鳥の悪口を書いた本ではありません。
そこには我われ一般人(研究職の実態をあまり知らない人間の意)には想像も絶するような過酷な環境に挑む、研究者のガッツと情熱の日々が、とにかくユーモア全開で記されています。
鳥とはあまり縁がない(?)という人も、「研究者ってふだん何してるの?」、「生き物を研究するって、結局どういうこと?」といった視点で読んでいただきたい。
オススメの1冊です!
全体の感想
ざっくり感想
そもそも何故この本を読もうと思ったかというと、「タイトルに衝撃を受けたから」。
ただそれだけです(笑)
冒頭にも話したとおり、私は生き物の中でも、とくべつ鳥好きというわけではありません(可愛いなぁと思うことはあるけど、強いて言うなら犬とかカエルとかの方が好きです)。
でも、こんなタイトル付けるなんて絶対面白い人だと思うじゃないですか。
絶対鳥好き以外も面白い本じゃん。
…と、そこはかとなく好みの匂いを嗅ぎつけて読んでみたところ、想像していた以上に川上さんの文章が面白くて、更なる衝撃を受けました。
良く言えば、読者を飽きさせない、楽しませようというサービス精神を強く感じる文章。
別の言い方をすれば、数行に一回はボケを挟まずにはいられないタイプのおじさん(めっちゃ失礼)。
でもそれが良い。こういう元気が出る本を求めてたんですよ。
おそらく、珍しい鳥の生態や自然環境の話を淡々とし、「こういった仕事をしています」という実例を真面目に語られるだけだったら、そこまで興味を持てなかったと思います。
笑いながら読んでいるうちに、生きものや自然に思いを馳せるようになったり、研究職の方々に対するリスペクトが高まっていました。
さらに一つの分野を追求する姿からは、なんとも言えないロマンとワクワク感を感じます。
「知らない世界」を知るって、やっぱり面白い!
命がけのフィールドワーク
学者・研究者というと、研究室で実験や解剖をしていたり、インドアな姿をイメージする方も多いのではないでしょうか?
あるいは鳥に関する調査についても、自然豊かな場所で美しい鳥のさえずりを聞きながら…といった想像をするかもしれません(私がそうだっただけですが)。
しかしこの本を読むと、鳥類学者という職業がいかに命がけで、メンタルとフィジカル両方のタフさが必要かということが分かります。
絶海の孤島に上陸するため、事前にプールで泳ぎ詰め、ロッククライミングのジムに通う。
島の原生自然を壊さないため、持ち込む荷物の浄化はもちろん、自身も1週間前から種子のある果実を経つ。
こうしてやっとこさ上陸した島は、湿った霧に包まれた、鳥の死体と小バエのパラダイス……。
※ここからしばらく、お食事中の方と虫の苦手な方はご注意ください。
この楽園では、ヘッドランプにつられた大量のハエが、調査隊の口や鼻から体内に侵入してきます(ぎゃー!)。
いくら自然に慣れている研究者だって、こんなの気持ち悪い。
いっそ呼吸を止めてしまいたい。
でも、呼吸を止めたら自分が死んでしまう…。
そんな最悪な状況の中、川上さんは自分を騙してやりすごそうとします。
呼吸はやめられないから、発想を変えるしかない。ここのハエは、鳥の死体を食べて育っている。体の素材は鳥肉100%。そうか、口に入っているのはハエの形をした鳥肉だ。それなら我慢できる。
できるか!?
思わず激しくつっこんでしまいそうになりました(あと、すごく鼻がムズムズしてきて嫌)。
こうした自然の驚異にさらされるエピソードは、他にも多数出てきます。
読んでいて思わず「うぎゃぁ」と言いそうになる話もありますが、想像を絶するような環境で調査してくれている人たちがいるおかげで、私たちは未知の生物や自然環境について知ることが出来ているのですね。
印象に残ったこと
本書を読んでいて、個人的に印象に残った部分を2つ選んでみました。
ざっくりとだけ説明するので、気になった方は是非本を読んでみてください!
- 愛されたくば、愛称を与えよ
- 現実に生きるキョロちゃん
※上記の項目名は実際の本文に出てくるものではなく、私が勝手に一言でまとめたものです。
愛されたくば、愛称を与えよ
『第三章 鳥類学者は、偏愛する』では、小笠原諸島にしか生息しない「アカポッポ」という鳥が登場します。
この「アカポッポ」という名前はあくまで愛称であり、本名は「アカガシラカラスバト」。
噛みそうなうえに、カラスだかハトだか分からないすごい名前ですよね。
2008年1月、島民にすら馴染みのないこの希少な鳥を絶滅させないために、国際ワークショップが開かれました。
様々な課題へのアプローチを議論しあう中でつけられたのが、この「アカポッポ」という愛称だそうです。
締めくくりは愛称の決定だ。見たこともない鳥を守るには、何よりまず対象への愛着を育てる必要がある。
これ、なるほど!と思いました。
具体的な対策や活動も大事だけど、多くの人が関心を持って行動していくためには、対象への愛着や親近感って、とても大事だと思います。
そのための手法の一つが、「愛称を与える」だったんですね。
これは自然や生物の保護に限った話ではなく、あらゆる分野で応用できそうなことなんじゃないかなぁと思いました。
私のことも、「ののさん」、「ののちゃん」の愛称で呼んでくれていいのよ!
余談ですが、この章でも著者の川上さんはとんでもない目に遭っています(笑)
笑っちゃいけない事態だけど、そんな風に書かれたら笑っちゃうじゃない!といった感じ。
痛かった思い出をこんな風にネタに昇華できるところも、川上さんのすごいところです…。
現実に生きるキョロちゃん
『第四章 鳥類学者、かく考えり』では、鳥類学者の視点でチョコボールのキャラクター、「キョロちゃん」のガチ考察が繰り広げられています。
個人的にはこのパートがめっちゃ好きで、扉絵の「リアル・キョロちゃん」のイラストも、これがまたなんとも可愛くなく威厳に満ちていて惹かれます。
体の特徴からこんなことも分かるなんて、専門家すごい!と思って読んでいくと、最終的には「形態だけで生態が分かるなら野外調査はいらん(意訳)」と振り出しに戻る。
そして辿り着くまさかのオチ…(笑)
空想科学的な話が好きな方におすすめのエピソード(?)です。
おわりに
本書によると、日本鳥学会の会員数は約1,200人程だそうで、『日本タレント名鑑』に載っているタレント数(1万1千人いるらしい)と比べても、日本の鳥類学者がかなり希少なことが分かります。
なんでタレント名鑑と比べたんだろうというツッコミはさておき(本書に出てくるんです)、そんな希少な鳥類学者になった川上さんも、昔から鳥が好きだったというわけではないそうです。
特定の研究対象を決めていたわけでもなく、「受け身の達人」として導かれるままに鳥類学の世界に辿り着き、結果それが天職になった……。
なんてキャリアについてのお話も、ロマンがあるなぁと感じました。
これといった志がなくとも、興味あることや周囲の誘いにとりあえずのってみることで、その後何十年も身を捧げられるテーマに出会うかもしれない。
知らない世界の知見と笑い、そして最後に人生にも思いを馳せるという、なかなか濃い読書体験が詰め込まれた1冊でした。
普段あまりこういった本を読まない方も、ぜひ。